カセットデッキを修理した話

2016年終わりに田島寮同窓会向けに書いた文書に加筆修正

cassette tapes

 いま家には、高校〜大学前半くらいまでに、FM ラジオからエアチェック(録音)したカセットテープが、二〜三百本あります。
 それらの全ての録音に活躍した『カセットデッキ』(ラジカセではなく据置型のもの) は、府立高校の入学祝いに買ってもらったものです。ですがいつしか使わなくなり、ある時動かそうとしたら、動かなくなっており、さらにそれからも15年かそれくらい経過しています。
 数年前までは車にカセットプレイヤーが付いていたので聴いていたのですがその車も古くて買い替えてしまいました。
 録りためたカセットテープを本当に再生できる環境が無くなってしまう前に、デジタル化など出来ないものでしょうか?

 まずは資金はさておき新品のカセットデッキが買えないか検討しました。そうすると、かつてはどのオーディオメーカーも生産していたカセットデッキが、現在では最後の砦として TEAC 製のみが売っているようです。ところが重大なことに、DOLBY NR (ノイズリダクション) に対応していないのです。これもかつては私の最安値の品も含めどのカセットデッキにも付いていた機能なのですが、自分が録りためたカセットテープはほぼ全て DOLBY C NR で録音されており、これがないと本来の音で再生することができません。噂によると今日では部品が入手できないのだとか..ロストテクノロジーですね。

cover opened

 重い腰を上げて、久々にネジを外してカバーを開けてみました。するとキャピスタン(テープ送り)を回すゴムベルトが、切れるというより「熔けて」ねちゃねちゃになっていました。動かなくなっていた原因が今になって分かりました。原因がモーターの寿命だと厄介だと思っていたのですが、これならベルトを交換すれば動くようになるのではないでしょうか。ただしここを「輪ゴム」で代用するというのは、昔何かで試したような記憶があるのですが精度が無く音がひょろひょろになったかすかな記憶がありました。
 余談ですがこの愛機 TC-W3、基板上に回路ブロックの説明 (BIAS とか DOLBY AMP とか) が書いてあって面白いです。

 「新品を購入する」の次のオプションとして、修理(ベルトの交換)してもらえないか、ヤマダ電機に持っていきました。修理受付でモノを一見して「うわー」みたいな感じで、次に S○NY に電話して、「古いので部品がありません」、門前払いでした。
 次にその足で、エディオンに持っていきました。修理受付で S○NY に電話して (同じ人が電話に出たのかもしれませんね!?)、「古いので部品がありません」、終了しました。今度は食い下がったのですが「我々はメーカーの部品を用いて修理しておりそれが無いと修理できない」。修理するというより修理を断るための応対のようでした。自分もメーカーに身を置かせてもらってるので、両方の立場が分かるのですが、ゴムベルトを何らかの汎用品に交換すれば修理代金が取れそうなものなのに、修理は儲からないのだろうかと思いました。

belt wiped

 最後のオプションとして、どうにかしてベルトを入手して、自分で修理できないものだろうかと考えました。勢いで A / B とあるダブルデッキ (カセットテープを入れる所が 2つある) の A 側の粘性のある黒インクのようなベルトを何とか拭き取っていました。

 とはいってもベルトが入手できるかどうかが最大の難点です。インターネットで検索したら、「昭和カセットデッキ研究所」なるものが見つかりました。色々カセットデッキを修理していて、同じことをもっと高レベルで考える人が既にいたものです。なんでもベルトの型番あるいは長さを調べて海外のサイトでベルトをまとめて注文していたとか、しかし最近は手に入りにくくなってきたとかあります。ハードルが上がりました。かつては秋葉原の千石電商という店の店頭にあったが最近行ったらなかったとも書いてありました。ますますハードルが上がったと思いながら、蜘蛛の糸をつかむ思いでそこに書かれていた参考リンクを押してみると..

sengoku page

 そこにはあらゆる種類(平/丸/角など)・径(長さ)・太さのベルトが画面いっぱいに並べられた通販ページが出現しました。注文可能なようです。千石電商 (あと昭和カセットデッキ研究所も) 神か!? と思った瞬間でした。

measuring

 とはいえ在庫無し入荷未定といわれるんじゃないかと半信半疑ながら、糸を巻き付けてどうにか長さを測り、届いたとき嫁に要らないもん買わんといてとか言われないかと恐れながら、近い長さで3種類×2本ずつのベルトを注文してみました。

melted belt removed

 ベルトが「届く」までの間に、Aデッキに続いて Bデッキのベルトを拭き取ることにしました。今度は熔けたベルトがモーター側の狭い範囲に付いているようなので、Aデッキよりは楽に拭き取れるだろう..という見込みが外れました。金属にゴムが同化して固着していて、ドライバーで取り除く気の遠い作業となりました。昭和カセットデッキ研究所によればゴムが加水分解するそうです。何とか削り取ったものの軸に傷が付いてしまい、たとえベルトが手に入ったとしてもきれいに再生できないのではと危惧しました。

belts arrived

 待ち望んでいたベルトが届きました。見た感じでは求めていた物です。入手困難だと思っていた物がこうもあっさりと行ったようです。

how to set belt

 ここにベルトを引っかけないといけないのですが、どうやってネジをどれだけ外さないといけないものか.. メカの作りはそれなりに複雑です。

A deck belt set

 Aデッキのベルトをかけることに成功しました。測った長さ(直径)もピッタリのように思えました。太さはいちばん細いものと 2番目に細いものを念のために注文したのですが 1番目のは細すぎたように見えたので 2番目のものを用いました。

A deck rotating level meter

 再生ボタンを押すと..
 動いた、回った、鳴った!
 やりました!
 二十年ぶりかに見た光景でした。
 変わらぬ高音質を届けてくれました。
 (← click image to play)

B deck belt set

 Aデッキに続けて Bデッキのベルトもかかりました。ですが、再生を押すとキャピスタンは Aデッキ同様にいけたのですが巻き取り側のリールが回らずテープが巻きとられません。早送りは出来るのですが.. また次の週末に持ち越しです。

B deck unloaded small belt page

 苦労して Bデッキのメカを取り外してみると、確かに巻き取り側リールを回すためのローラーのベルトが欠けているようです。これが直接の原因でしょうか?
 再び千石電商の通販ページを見たのですが、ものがかなり小さく、径が飛び飛びでちょうどいい長さのものがないように思え、しかも角型がほしいのですが丸型のものしかありません。ここが精度を求められない箇所ともいえるため、さいあく輪ゴムでしょうか?? だめかもしれませんが、何サイズか注文してみました。2回も何か届くと今度こそ嫁に何か言われないかと恐れながらも。

 一方で、まさかホームセンターには無いよなあと思いながらだめもとで探していると、なんと水道のパッキンで全く同じ形状のものを見つけました! その場で買いかけたのですが千石電商のベルトを見てから決めようと思いました。

small belts arrived

 さて待ち望んでいたベルトが届いてみると、うち小さすぎると思っていたものが、思ったより大きく、むしろかなり近い大きさのようでした。

small belt set

 ベルトを交換すると、思った通り、巻き取り側リールが回るようになりました。ただ Aデッキの無事な同箇所と比べても動きがゴロゴロしており、せっかく精度の高い部品のはずなのですが、もう 1回付け直しても同じでした。高精度が求められない箇所だと思って割り切ることにしました。
(← click image to play)

lachet

 ちなみに普通のドライバーではつかえて入らない所に入る直角のラチェットドライバーがここぞとばかりに活躍しています。

B deck repaired

 Bデッキも再生できるようになりました。走行安定性を心配していましたが大丈夫そうでしょうか?

 ここまでで、修理を門前払いされたカセットデッキが、機械修理は素人と変わらない者によって、秋葉原の数百円の部品で再生できるようになりました。部品が無いと言っていたのは何だったのでしょう。確かに純正部品ではない同じ性能が得られるかどうかは分からない汎用品でもあるのですが。なお他に何箇所もゴムベルトが使われているのにそちらは何とか無事なのでここだけ特別な物を使っているのでしょうかね。それが裏目に出たのでしょう。

 もっとも、これで完動かというとそうではなく、Aデッキが何故か早送りできない問題はそのままで、さらに Aデッキから異音がする問題や、Aデッキの早送りボタンが折れてしまった問題などがあります。しかも何週か経ってから Aデッキが、再生ボタンを押すと同時にケース内部に手を突っ込んでフライホイールを始動するアシストをしてやらないと再生開始しないようにもなってしまいました。もしかしてベルトが少し大きいのかも知れませんがモーターが弱くなっているのだとすると今度こそ厄介です (2017年12月: あれから一段階小さめのベルトを注文し再交換したらいけました)。メーカーに修理を頼むと完璧に直そうとするあまり、少しでも直る可能性が無いと「門前払い」してしまうのかもしれません。

 あとやりたいのはカセットテープのデジタル化です。
 情報工学出身者としては、古いアナログ音源をデジタル化する安直な機械などもあるようですが「そんなもの」を新しく買って対応するのではなく、PC でやろうと思いました。家にあるのは NetBSDFreeBSD という OS で動くものです。まずは NetBSD でさっそく試してみたのですが、どういうわけか音が化けてしまいうまくいきません。
 そうこうするうちに、以前から IC レコーダを所持しており、見てみると外付けマイク端子はスイッチ切替だけでライン入力も可能で、「高音質モード」も備えていて、これで録音できるんじゃないのということに気付いてしまいました。付け加えて小さいので機材を移動したりする手間も考えずに済みます。必要なのは電池くらい? ..どっかいったと思っていたエネループがこれを書いているたった今発見されました。
 こんな手の平サイズよりもさらに小さい機材で、録りためた数百本のカセットテープが、小指の爪くらいの microSD カード (32GB もあれば余裕? 計算してないので違うかも) に全て収まってしまう悪寒がしました。

 かつてはエアチェックが人生の一部だったのですが、そもそも考えてみるとそれはたかだか五年間くらいの出来事だったのですね。

 参考になれば(?)幸いです。

以上


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